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いきものがたり

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2018年 06月 18日

椎名キーパーにインタビュー (情報誌マルキーズ2018年4月号に掲載)

アフリカゾウ家族の近況

Qようやく、春の訪れを感じられるようになりましたが、それにしても、今年の冬は例年にも増して寒かったですね。
ゾウさんの寒さ対策として何か工夫をされていたんですか?

 何十年ぶりかの大寒波だったらしいですね。吹雪いている日が何日もあり、ゾウさんには厳しい冬だったと思います。
寒さに慣れてきているとはいえ、やはり、寒いのが得意な動物ではないので、管理の仕方を工夫してやらないといけません。
寒さをしのげるように、室内展示場をフリーにして遠赤外線にあたれるようにしたり、部屋には藁を敷き詰めたり、
お湯を飲ませたりして体が冷えないようにしてやっていました。
あと、毎年のことですが、耳があかぎれになってしまうので、何度もオリーブオイルを塗ってやりました。

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Q
リカお母さんがアフ君のお部屋を使い始めて四カ月が経ったと思うのですが、三頭は分離された状態で落ち着いてきたんでしょうか?


慣れてはきてくれています。覗き窓からしか子どもたちの様子を見ることができないですから、リカさんは横になることをせず
立ったまま寝ていることが多かったのですが、最近では、時々は横臥して寝てくれているようです。
慣れたとはいえ、やはり、窓越しでしか親子が会えない今の状況は、ゾウさん達にとって精神的に良くないのですが、
部屋の大きさや造りなどの点で親子同居は難しいですから、我慢してもらうしかないんです。
彼女たちの変化に注意を払いながら、今後は、媛ちゃんと砥愛ちゃんを同居させることも考えています。

今、私たち動物を飼育する側には、動物たちの福祉や倫理面から、彼女たちが快適に暮らせる環境で管理することが一番に求められてきています。
以前は、夜間に繋留をしていましたが、今は自由に動き回れるようにしています。
夜間も同居させて、ひとつのお部屋で姉妹が遊びながら長い夜を過ごしてもらう、そんな管理も必要なのかなと思っています。

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Q是非、そうしてあげてください。
昼間、運動場で砥愛ちゃんがお昼寝を始めると、リカお母さんと媛ちゃんがそーっと近づいてきて、砥愛ちゃんが目を覚ますまで、
日陰を作るように傍に寄り添う姿を何度も見ました。無防備で眠っている砥愛ちゃんのことが心配なんでしょう?
一緒にいる、小さいものを守る、これがゾウの家族の姿なんだと感動して見ているんです。

とべ動物園は、動物に優しい愛ある動物園であり続けていただきたいなあ。

ところで、昨年から、ゾウの訃報が続きましたよね。特に子ゾウ死亡のニュースはショックでした。
昨年八月には豊橋のマーラ(五歳)、十二月に市原のラージャ元気(一歳)、そして、一月には沖縄の琉美(二歳)
無事に生まれたからといって、育って当たり前じゃないんですね。
椎名キーパーがゾウさん達のお誕生日を迎えるたびに、しみじみと「無事に育ってくれてありがとう」と言われていた理由がわかりました。


年老いたゾウが亡くなることは仕方がないとしても、やはり子ゾウの死は、我々業界の人間としても、ショックは大きいですね。

今言われたように、アジアゾウに関しては、赤ちゃんが生まれてはいるのですが、無事に育っていないという現実があります。
アフリカゾウはここ十年余りの間に、とべ動物園の三頭以外生まれていません。
皆さんはテレビの映像とかで子ゾウの元気な姿を度々見る機会もあり、雄雌のペアがいたら子ゾウがいて当たり前のように思われがちですが、
野生においても、ましてや飼育下のゾウとなれば、子ゾウが生まれ元気に育ちきることは難しいことなんです。

それを踏まえて、今後どうしていくのか。
日本の動物園からゾウを消えさせてはいけない。可能性のあることはやらないよりはやったほうがいいということで、
色んな取り組みが進められています。

日本の動物園では、繁殖のためのゾウの移動を試みてきました。
最近では市原ぞうの国からアジアゾウのゆめ花が沖縄こどもの国にお嫁にいったことはご存知ですよね。

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動物園にいる子の中には雄であっても雄になりきれていない雄ゾウや、昔は発情していたんだけれど、
発情が止まってしまっている雌もいたりします。
交尾しても妊娠に至らないということです。
東北の仙台、秋田、盛岡の動物園にはそれぞれペアのアフリカゾウがいるのですが、なかなか子どもができない。
それで、環境を変えてみる、ペアを組みかえてみるということで、雌をそれぞれ移動させることが決まっています。
日本では、大きくなってしまった雄を他の園に移動させることは難しいですし、発情が止まってしまっていた雌でも
環境が変わることで、排卵が起こることもあるんです。

しかし、動かすことがうまくいくとも限らない。
三年ほど前、姫路の姫子を王子動物園に移動させたのですが、
パニックになって精神的に病んでしまい、一カ月程で姫路に帰したこともありました。

ゾウは大変デリケートな動物です。
あそこの動物園のひとりぼっちのゾウさんがかわいそうだから、どこそこの動物園に移動させたらとか、
ゾウを集めて一緒に飼えばいいんじゃないかとか、皆さんが思っているほど簡単なことではないんですよ。
何年も同じ場所から出たことがない動物園のゾウにとって、環境が変わることは大きなストレスになります。
他のゾウを一度も見たことがなく社会性が育ってないゾウにとっては、群れの中でどう暮らしていいのかわからなかったりする。
飼育員との社会性をもってしまった子は、飼育員が変わるだけで不安になったりするんです。
サファリで数頭で飼われていた子は成功しているけれど、動物園の子は厳しかったりします。
繁殖を成功させたいという我々の強い思いはありますが、色んなリスクを考えながら、
その子にとっての幸せも考えてやりながらのことになりますよね。

また、ヨーロッパやアメリカ、アジアでも、人工授精でゾウの赤ちゃんが誕生しています。
日本でも、人工授精も考慮してのゾウの訓練が必要になってくるでしょう。

そんな中、リカさんとアフ君の間には三頭の赤ちゃんが生まれ、うちの子たちは三頭とも無事に育ってきてくれています。
そのことに満足していてはいけない。
今後は、日本全体のために、何らかの形で寄与していかなければならないのかなと思っています。

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ただ、適齢期を迎えた媛ちゃんをお嫁に出せるかというと、彼女の生い立ちを考えると難しい。
今でも、ひとりになると常同行動が続いているし、環境を変えることはリスクが大き過ぎます。
リカさんと砥愛ちゃんの親子関係とはどう見ても違うことはおわかりでしょう?
ゾウ同士のコミュニケーションがうまくとれるのか、それも心配です。
じゃあ、お婿さんを迎えたらうまくいくのか、やってみないとわからないことですが、今の状態では、それも難しいでしょうね。

人見知りが激しく精神的にまだ弱い媛ちゃん、そしてまだまだ子どもの砥愛ちゃんに対して、私たち飼育員がよく見といてあげながら、
彼女達にとって何がベストなことなのか、将来を見据えながら、繁殖の可能性のあることは何でもやっていかなければならないとは思っています。
当然、人工授精ということも、視野に入れておかなければならないでしょうね。

今回も貴重なお話をありがとうございました。

(取材・文 山岡ヒロミ)




by taketoriouna | 2018-06-18 23:14 | アフリカゾウ家族


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