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いきものがたり

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2018年 02月 10日

椎名キーパーにインタビュー (マルキーズ情報誌2018年新春号に掲載)

アフリカゾウ家族の近況

最近の家族の様子を椎名キーパーにおうかがいしました。


Q 砥愛ちゃんも自分のお部屋ができたとか・・・

砥愛ちゃんの親離れに向けて、日中にパドックで親子を分離することはしていたのですが、11月からは夜もひとりで過ごす訓練をさせています。

とべ動物園にはゾウの寝室が三つあるのですが、アフ君が亡くなってからも、ずっと二部屋だけを女子達の寝室にしていました。
砥愛ちゃんはお母ちゃんとお姉ちゃんの部屋を行ったり来たりできるようにしていたんですが、体重が1500キロ近くになり、
そろそろ、ひとりで寝室を使うようにしないと窮屈ですからね。

どういう部屋割りをするのが良いのか?アフ君が使っていた部屋は隣の部屋とは壁で仕切られ、小さな覗き窓しかありません。
アフ君の部屋に誰を入れるのか?若い子たちに任せてみることにしたんです。
媛ちゃんがアフ君の部屋を、お母ちゃんは真ん中、砥愛ちゃんには媛ちゃんが使っていた部屋を使ってもらうことにしたようです。


Q
媛ちゃんをアフ君のお部屋に入れたのは、リカお母さんと砥愛ちゃんを急に引き離したのでは、
ふたりがお互いに不安になるからかな?と私は思っていたんですが・・・。
若い飼育員さん達が媛ちゃんの準間接飼育をするにあたり、アフ君のお部屋の方が、ターゲットトレーニング等がやり易い
という理由だったみたいですね。

私が子どもの頃、自分の部屋をもらえて嬉しかった記憶がありますが、ゾウさんたちはどんな様子でしたか?

砥愛ちゃんはひとりのお部屋をもらって、お母ちゃんやお姉ちゃんにご飯を奪われることもなく、自由気ままという感じだったのですが、
媛ちゃんはというと、常同行動が始まってしまったのです。夜中じゅう部屋をグルグルと歩き回っている。


Q ちょっと質問していいですか? 確か、アフ君のお部屋の監視カメラは壊れたままだと聞いていますが、
なぜ、夜中歩き回っているとわかるのですか?

朝、自分が出勤してまず確認することは、ゾウさんたちの様子と糞や尿、そして足跡がどこにあるかを見るんです。
糞を見ればお腹の調子もわかりますし、部屋のどのあたりに糞や尿があるのか、足跡はどうか・・・によって夜中の行動がわかります。

媛ちゃんの糞は部屋じゅうに散らばっており、部屋の中をずっと歩き回っていたことは足跡から推測できました。
夜中、眠ることができなくて、昔のように部屋をグルグルと歩き回っていたんでしょう。
案の定、足の爪が磨り減っていました。もっと悪いことには、毎晩、壁に頭をぶつけて暴れていたようです。


Q 媛ちゃんのおでこの白い八の字眉はそういうことだったんですね。
いつ見ても、白い粉がおでこに着いているから、不思議に思っていたんです。
媛ちゃんは寂しかったんでしょうか?

椎名キーパーにインタビュー (マルキーズ情報誌2018年新春号に掲載)_e0272869_22300502.jpg

 そうだと思います。ひとりぼっちが媛ちゃんには一番キツイことなのかもしれません。

若い子たちは、媛ちゃんの変化に気づいてやって欲しい。
日常業務に追われたり、また、お世話することに慣れてくると、ゾウさんたちの小さな変化を見落としがちになってしまいます。
飼育員として、大切にしなければならないことは何なのか?それは、動物のことを一番に考え、小さな変化、
心の動きに人間が気づいてやることです。
それが、最終的には飼育員自身を助けてくれることになるからです。

媛ちゃんも頑張っていました。自分も媛ちゃんが強くなってくれる、慣れてくれることを望んでいたのですが、もう、限界かな?
これ以上続けると、心が病んでしまう、爪の状態が悪くなったら歩けなくなると思い、媛ちゃんを元の部屋に戻しました。
アフ君の部屋には今、お母ちゃんが寝ています。媛ちゃんはやっと落ち着いてくれたようです。


Q 引き離されたリカお母さんと砥愛ちゃんは大丈夫なんですか?

お母ちゃんはやはり心配なのでしょうね。覗き窓からしか、子どもたちの様子を見ることができないですから・・・。
夜、横になって寝ることがなくなっています。

砥愛ちゃんはご飯さえ食べれれば大丈夫みたいです()。お母ちゃんやお姉ちゃんと鼻で触れ合うことはできますからね。


Q 切ないですね。外国の動物園みたいな広いお部屋で、家族みんなで安心して眠らせてあげたいです。

現実問題、三頭一緒は無理なことですから、与えられた環境の中で、いかに動物たちのストレスを減らしながら快適に暮らしてもらえるか、
飼育員が心を配りサポートしてやることが必要です。
ひとりに慣れていない子どもたちが夜中退屈しないように、エサを吊るしたり、丸太を吊ってみたり、タイヤを入れてやったりしています。

椎名キーパーにインタビュー (マルキーズ情報誌2018年新春号に掲載)_e0272869_22301395.jpg

 

それでも、今回のような常同行動や異変が続くようなら、無理をさせてはいけません。
見極めと判断力と臨機応変な対応が、飼育員には求められるのです。

自分たちがお世話しやすいように、動物たちを自分たちが考えるように扱いたいのは山々ですが、あの子たちは物ではありません。
高度に発達した知能を持ち、感情があります。ゾウの社会があり、彼らのルールがあります。
心を病むようなストレスを与えることは避けなければいけません。
それは、ゾウさん達のためでもあり、飼育員のためでもあります。ストレスから事故につながることがあるからです。


Q ゾウさんは優しい穏やかな動物というイメージですが、ゾウによる事故が、今年も国内で起こっていましたよね?

 ゾウによる飼育担当者の事故が二件、そのうち一件は死亡事故でした。
ライオンなどの猛獣とは違って、ゾウの場合、直接ふれあいながらお世話をする時がありますから、より危険が伴います。

 先日、「ゾウ会議」に北本キーパーと参加してきました。
日本動物園水族館協会が年に一回開催するこの会議は、適正な飼育管理の方法を学び個々の飼育員の技術向上を目指すことと、
扱う人間の安全を図り危険防止の意識を高めることを目的としています。

これから、若い飼育員たちはもっともっとゾウのことを勉強し、観察し、技術を向上させることはもちろんですが、
国内外の動物園での飼育状況も把握しながら、現場で生かして欲しいですね。
同時に「ゾウの気持ち」になってやれる飼育員であって欲しいと願っています。

椎名キーパーにインタビュー (マルキーズ情報誌2018年新春号に掲載)_e0272869_22302021.jpg

そして何よりも、お世話をする側の人間の安全を図ることが最優先です。
ゾウは人間よりもはるかに大きく力が強い。振り上げた鼻に当たっただけでも人間は振り飛ばされてしまいます。
ゾウによる事故を防ぐためにも、慣れや気の緩みは禁物です。
それに、人間だってストレスが溜まるとイライラしたり、気が荒くなったりしますよね。
前にもお話したと思いますが、あの子たちは一日の三分の二の時間を狭い部屋の中で過ごしているのです。
どうしてやることが、あの子たちのストレスを軽減できるのか・・・。
「ゾウの気持ち」になれば、おのずと何をするべきかわかると思いますよ。
ゾウさんたちのストレスを減らしてやることが、人間の安全を図ることにもつながるのです。

                                               (取材・文 山岡ヒロミ)





by taketoriouna | 2018-02-10 23:17 | アフリカゾウ家族


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