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いきものがたり

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2016年 08月 25日

椎名キーパーにインタビュー (情報誌マルキーズ 2016年7月号に掲載)


命と向き合う

  ―― アフリカゾウ家族と生きる ――

前回に引き続き、飼育体験取材後半

13時 アフくんの牙の洗浄消毒

朝も消毒されていましたが・・・

 そうですね。一日に二回から三回、傷口を洗浄して薬を注入します。傷口が化膿して菌が脳に回ると大変なことになります。
命に関わることにもなりかねませんからね。

 動物園では、動物たちの健康管理に細心の注意を払わなければならない。色んな業務がある中で最優先にしなければならないことです。
体調が少しでもおかしければ、展示、この言葉は嫌いですけれど、展示も中止します。
我々は、尊い命を預かっているんです。いつも、そのことを肝に銘じています。


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13時30分 

午後の一時間はデスクワークや雑用に追われています。

14時30分 収容準備

15時30分 ゾウさんたちを収容

 最近では、ゾウさん達との信頼関係を築いてもらうためにも、若い子たちに飼育業務を任せるようにしています。
それで、時々、収容後に、私との関係を確認するための馴致訓練をしているんです。
私を忘れられても困るからね()

あとは、調理場やパドックの掃除をして、今日の業務日誌をつけて終了です。


「また明日ね。おやすみ。」と、声をかけてゾウ舎を後にされました。

 野生動物の飼育にあたって、心がけていることは、動物の幸せを一番に考えて管理してあげることだとおっしゃる椎名キーパー。
どうすれば彼らのストレスを軽減してあげられるのか、いつも試行錯誤を重ねていらっしゃいました。

なるべく野生に近い環境で暮らしてもらうってことなんですが。

小さな動物であれば、温度管理や日照時間など、動物園でも野生に近い形にしてあげることは可能です。
しかし、大型動物になると、彼らの棲んでいる環境をそのまま再現することは難しいですから、その分、
ソフト面に工夫をしてあげることが必要です。


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 群れで生活するゾウには、家族とのコミュニケーションが重要な要素になってきます。
一頭より二頭、二頭より三頭、家族で暮らすのが本来の姿ですから、自分たちも家族の一員という意識を持ちながら接するようにしています。
人間の安全を確保しながら、ゾウさんたちに家族として認めてもらえるよう、私たちが努力することが大切なんです。


 環境エンリッチメントということですよね。身体的な痛みや苦しみを軽減するだけでなく、精神的なものや社会性にも配慮した環境をつくっているんですね

 だからと言って、充分なご飯を与え獣舎の掃除さえして、あとはゾウと一緒にいてやればいいわけではないんです。
ゾウさんもケガをすることもあるし、病気になることもある。
その時に適切な対応処置ができるためには、日頃から、馴致のためのトレーニングを怠ってはいけないし、
検温、採血、また、投薬の工夫もしなければならない。

 また、野生にいる時は、常同行動というものはありません。
動物園にいる動物たちが、常同行動をするのは、ストレスや不安など何らかの原因があるわけです。
私たちは、動物たちの採食時間を長くする工夫をしてみたり、タイヤやボールなどの遊び道具を入れてみたり、
そうすることによって、常同行動の時間がどれくらい減ったのか、どうしてやることで常同行動を減らすことができるのか、
常に観察し新しいことを考えていかなければいけません。
狭いところで、変化や刺激のない生活を送っている動物たちが、少しでもいきいきと暮らせる工夫をしてあげる。
お客様の見えないところでの飼育員の弛まぬ努力が必要です。


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 私たちは、基本9時~5時までの間しか、彼らを見てあげることができません。
ストレスから自傷行為をする動物もいます。ストレスがひどくなると、それが原因で死に至ることもあるんです。
動物たちのわずかな変化も見逃さない。何度も言うようですが、私たちは尊い命を預かっているということを忘れてはならないのです。

 
 飼育員さんのお仕事を体験しながら見せていただいて、命を前に、何一つ手を抜くことができないお仕事であり、
とても責任の重いお仕事であると思いました。

 そして、一番感じたことは「命の重み」。椎名キーパーが、いつもどんなお気持ちでゾウさんたちのお世話をしていらっしゃるのか、
少し感じることができました。外から見ているだけではわからないご苦労や大変さも実感した一日でした。

 この取材をさせていただいたのは3月、それから一か月後の4月14日、アフくんが不慮の事故で亡くなりました。
まだ29歳。あまりにも早すぎる突然の死を目の当たりにして、あらためて、命の重みを実感すると同時に、
動物園に暮らす野生動物の福祉について、考えさせられる出来事になりました。 


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 時間を遡ることができるのならば、ああしておけばよかった、こうしておけばよかったという思いは尽きませんが、
リカさんと子どもたちのために、今できることを精一杯やるしかないですね。

 アフ君が亡くなったばかりですが、動物園としては雄ゾウの導入に動き出さないといけません。
将来の媛ちゃんや砥愛ちゃんのお婿さんになる雄ゾウが見つからないと、とべ動物園から、
いずれはゾウがいなくなってしまうことになりかねないのです。

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 6月1日は砥愛ちゃんの3歳のお誕生日でもあり、アフ君の四十九日にもあたります。
砥愛ちゃんの3歳を一緒にお祝いして、アフ君は旅立つのでしょうね。
アフ君はリカさんと共に、このとべ動物園で命をつないでくれました。
今度は媛ちゃんや砥愛ちゃんが命をつなぐ番です。
この子たちにとっても、赤ちゃんを産み育てることが本能であり幸せなことなのです。
また、皆さんに赤ちゃんをお披露目できるよう、私たちも頑張りますので、これからもずっと、
この家族を応援していただけると嬉しいです。

 
 希少動物の命を預かる飼育員というお仕事。現場では、個々の動物のために、懸命な努力がなされていました。
 しかし、動物の福祉を考えるとき、飼育員にできることには限りがあり、行政の協力に加えて県民の理解と、
いろんな形での支援が広がっていくことを願っています。

          (取材・文 山岡ヒロミ)




by taketoriouna | 2016-08-25 10:41 | アフリカゾウ家族


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