獣医師さんにインタビュー (マルキーズ情報誌2017年春号に掲載)

命と向き合う  ―獣医師という仕事 ―

今回はこの四月で動物園に赴任して三年目を迎えた小池獣医師さんにお話を伺いました。


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Q獣医さんになろうと思われたのはいつ頃だったのですか?なにか、きっかけがおありになったのですか?

獣医という仕事を意識し始めたのは小学校高学年の頃だったと思います。

私の家が東京のはずれで町工場を営んでおりまして、敷地内に子猫が捨てられていることがよくありました。

父も母も動物が好きだったので、その子猫たちにエサをあげて飼うようになり、多い時には猫二十匹くらい、犬にチャボまでいました。

小さいころから、動物が身近にいる環境だったんです。

生きものを飼うということは、当然、病気にもかかるし、死を目の前で見ることもあります。

六年生の時、もともと体の弱い生まれたばかりの子猫がいて、私がミルクをあげてお世話をしていました。

近くの動物病院にも連れて行くことが度々あり、獣医さんの仕事を間近で見ることも多かったんです。

その子猫は二歳半で死んでしまったのですが、その頃から、自分も動物の命を救いたいという思いが強くなり、

動物のお医者さんになろうと決めたんです。

心変わりもせず、その時の気持ちを持ち続けることができたのは、常に生きものと接していたし、

また、生きものを尊い命として家族みんなで育むという環境にあったからでしょうね。

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Q
動物の生と死を間近で見ながら、小さい頃から、命の尊さを体験の中で感じていらっしゃったんですね。

私は、幼少時に生きものを飼うという経験は、子どもにとってとてもいい事だと思っているんです。
でも、「壊れたからまた買って」と、まるでおもちゃのように、動物が死んだらまた買えばいいと思っている親や子どもがいると聞いて、
動物の命が軽く扱われているようで悲しくなることがあります。
そのあたり、獣医さんとしてどう思われますか?

うちの場合は猫を何匹も飼っていましたが、うちで生まれた子はいないんです。

朝起きたら、段ボールに入った子猫が何度もいたわけですから。

うちの猫たちには全て避妊去勢手術をしていたのに、新しい命が増えていく()

せっかく生まれてきた命だからと、両親は保健所に持っていくこともせず、またその子たちの面倒をみる。

私は幼少の頃に、命は尊いものであり、小さいもの、弱いものを「いつくしむ」という気持ちを、

両親の姿から教わったのだと思います。

生きものを飼うことは、子どもにとって、とてもいい経験になると思いますが、

親御さんがどういう気持ちで生きものを飼うのかが大切だと思うんです。

子どもに世話を任せるのではなく、家族の一員として迎え入れる。

子どもは、小さい命との接し方がわかりません。大人がどう接しているか、命をどのように扱っているのか、

命をどう思っているのか、子どもは大人の姿を見て感じ取るのだと思うんです。

小さいものは確かにかわいい。

でも、かわいいからとか、子どもが欲しがるからという理由だけで動物を買って欲しくはないかなあ。

その動物の命を左右する存在になる以上、家族みんなが飼い主として、その動物が健康で幸せに暮していけるよう、

しっかりとお世話をすることから、命の重みを実感するし、命の尊さが自然と子どもに伝わるんじゃないでしょうか。

Q小さい頃から、犬や猫と接して来られた小池さんが、町の動物のお医者さんじゃなく、
愛媛の公務員になられたのには、何かきっかけがおありになったんですか?
そして、海外青年協力隊でボリビアに行かれていた経験もおありになると聞きましたが。

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大学に入った頃は、犬猫のお医者さんを目指していたのですが、大学四年の頃、心変わりというか、大型の動物の方に興味がいきまして・・。

特に牛や豚など、私たち人間に命を捧げてくれる家畜の繁殖について、もっと勉強がしたくなり大学院に進みました。

そこで、すべて学業の方は納めたうえで、籍だけ残し休学して青年海外協力隊としてボリビアに二年間行っていました。

ボリビアでは、家畜の人工授精の認知度は低く、その利点がよく理解されていない状態でした。

人工授精の普及と動物医療が進んでいないところでの家畜の病気の治療、ボリビアでの経験はまさに自分がやりたいことだったんですね。

しかし、ボリビアでの二年で完全燃焼してしまい()、帰国後はもう研究はいいかなあという気持ちになっていました。

なぜ、愛媛に来ることになったのかは、家内とはボリビアで出会ったんですが、

家内の出身が高知、私の父が愛媛県出身ということもあり、四国とはご縁があって、

三十歳の時、愛媛県で勤めることになったんです。


Q
犬猫から家畜、今は動物園で野生動物を診ていらっしゃる。動物のことなら何でもこいじゃないですか?

野生動物のことはまだまだわからないことだらけです。

生態がはっきりしている動物の方が少ないくらいで、種特有の病気もあり、原因も治療法も解明されていない中で、色々試しながらの手探り状態です。

日本の動物園では、動物たちに負担をかけない動物福祉を配慮した飼育管理方法が推奨されており、

猛獣であるライオンやトラにも麻酔を使わないで採血している園もあるんです。

私の担当動物である知能の高いサルたちは、獣医を認識して逃げ回る個体もいます。

まずは、獣医さんは怖くないよって思ってもらうことからです。

このボウシテナガザルのマキコは、私が呼ぶと手を差し出してくれるようになったんです。嬉しいですね。

動物園の動物たちに、健康でストレスのないよう暮らしてもらって長生きしてもらうこと、

そして、次の世代に命をつないでいってもらうことが、私の一番の願いですから。

子どもの頃に抱いた動物の命を救いたい、守りたいという気持ちは、動物園に来てますます強くなりました。

頑張らなきゃならないですね。

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Q
最後に、動物園の獣医として、みなさんにお伝えしたいことはありますか?

動物園には夏前になると、多くの保護動物が持ち込まれます。巣から小鳥が落ちていたとか、

野ウサギの子どもが親からはぐれてひとりぼっちでじっとしていたとか、

可哀想だったからという理由で動物園に持って来られる方がいるのですが・・・。

私たちは「善意の子さらい」と言っています()

小鳥たちは、巣立ちの時、最初から飛べる子なんていないのです。最初は羽をバタつかせ、巣の下に落ちることもある。

何度も何度も挑戦して、大空に舞い上がれるのです。親鳥はずっとそんな我が子を見守っているはずです。

また、野うさぎの赤ちゃんは、親が授乳のために戻ってくるまで、じっとしてひとりで待っているんです。

お乳をあげようと戻ったら、我が子がいないなんて、親からしたら、「さらわれた」「誘拐された」状態だと思いますよ。

みなさんには、身近な野生動物の生態をよく知ってもらい、「善意の子さらい」をしないようお願いしたいです。

そして、動物園に来られた際には、色んな動物がいるということを、家族で見ていただきたいです。

地球に生きているのは人間だけじゃないよ。色んな生きものがいて、人間もその生きものの中の一部なんだということを知ってもらいたいですね。

動物園という場所柄、人間が檻の中にいる動物を見るという優位に立った目線になってしまいがちですが、

人間も動物も、自然のつながりの中でみんな生きている尊い命なんですよってことをお伝えしたいですね。

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お話を伺っていて、幼少の頃から動物の命と向き合ってきた小池獣医師さんの優しいお人柄が伝わってきました。

取材当日も、カンガルーが亡くなり、救えなかったことに酷く心を痛めていらっしゃいました。

今日も、医療器具を抱えて、動物たちの様子に目を配りながら園内を周っていらっしゃることでしょう。     (取材・文 山岡ヒロミ)


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by taketoriouna | 2017-07-27 21:45 | 動物園へ行こう | Comments(0)
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